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サクセスに学ぶ

第2回 「バンド・デシネ」

euromanga・小学館集英社プロダクション

「サクセスに学ぶ」は、キャラクターを活用して自社のイメージアップや親近感の育成に成功した企業のご担当者に、誕生から現在にいたるまでの経緯、苦労されたエピソードなどを伺うインタビュー企画です。
第2回目はフランス語圏で根強い人気を誇るマンガ「バンド・デシネ(bande dessinée:BD)」の登場です。BDは、アメコミのような親近感は感じられないかもしれませんが、実は日本のマンが界にも大きな影響を及ぼしています。
今回は、BDを積極的に日本に紹介している第一人者:フレデリック・トゥルモンド氏と先陣を切ってBDの出版に意欲的に取り組んできた小学館集英社プロダクションの編集者:澤田 美里氏にお話を伺いました。

バンド・デシネの基礎知識(Q&A)

Q1:バンド・デシネってなんですか?
A1:フランス語圏の漫画のことです。
バンド・デシネ(フランス語:bande dessinée)とは、ベルギー・フランスを中心としたフランス語圏の漫画のことです。
「bande dessinée」の名前は、「(絵が)描かれた帯」という意味のフランス語に基づいており、 略称はBD(ベデ)。バンデシネとも呼ばれています。
フランス初 のBD誌『Journal de Mickey』が発行されたのは1934年のことですが、実際には19世紀後半以降に誕生した風刺漫画や大衆向けのイラスト新聞の大量発行がルーツとされています。
キャラクターが広告に使用されるなど、日本でもよく知られている『タンタンの冒険』は、この草分けの時期に発表されたものです。
Q2:バンド・デシネの特徴は?
A2:日本の漫画とは違うところがたくさんあります。
BDは、基本的にハードカバーのA4判型で、独自の単行本形式である「アルバム」として出版されていました。左開きで横書き、全編フルカラー、ページ数は日本の漫画より少なめです。最近では、版型などにもいろいろなスタイルが見られますが 基本的には全編をフルカラーで美しく、しっかりと描きこまれ、ひとコマひとコマの情報量が多いのが特徴です。日本の漫画と違い、ほとんどの作家はアシスタントを使わず一人で描いているので、制作のペースもゆるやかで、完成までに1年以上かかることも稀ではありません。雑誌連載を書籍化するのではなく、ほとんどが書き下ろし作品になります。
Q3:フランスでのバンド・デシネは?
A3:バンド・デシネは、フランスでは「9番目の芸術」と呼ばれています。
フランスでは50年以上前から、「9番目の芸術」としてBDが位置付けられています(ちなみに、1~8は、1:文学 2:音楽 3:絵画 4:演劇 5:建築 6:彫刻 7:舞踏 8:映画)。
各コマを切り売りすることもあり、フランスではアート作品としてプレゼント需要もあります。
日本に紹介されている作品は、芸術的なものが多いのですが、純粋なエンターテインメント作品もたくさんあります。アクションやユーモアのような子ども向けのものも多く存在し、フランス語圏ではこのような作品がよく売れています。
Q4:日本でのバンド・デシネは?
A4:1960年代から紹介されはじめ、ファンを増やしています。
1960年代からBD作品が日本の雑誌で翻訳紹介されはじめ、1979年にはメビウスの作品「バラッド」が掲載されました。80年代にはメビウスの初来日などもありBDのファンが広がりました。その後、メビウスやエンキ・ビラルなどの作品が翻訳出版され、日本のBDファンが書店で書籍を購入できるようになりました。また、イーブックイニシアティブジャパンやコミックカタパルトでは、電子書籍でBDを出版しています。
2016年3月には、JR新宿駅新南口の商業施設「NEWoMan」(ニュウマン)に含まれる文化交流施設「LUMINE 0」のオープニングイベントとして、「CHANEL NEXUS HALL(シャネル・ネクサス・ホール)」とコラボレーションした「OUTBOX エンキ ビラル展」が開催され、BD作品が紹介されました。また、ルーヴル美術館は、「ルーヴル美術館特別展 『ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~』」と題し、2016年~2017年にかけて、日本国内で展覧会を実施しています。
Q5:日本の漫画家とバンド・デシネの関係は?
A5:日本の漫画家に大きな影響を及ぼしています
日本におけるBDのイメージは1970年代~1990年代の作品が多く、この頃に活躍したメビウスや、エンキ・ビラルたちは、建築家のようなデッサン力、大胆なアングルカット、映画のような心理描写、そしてSFタッチのストーリーなどを表現することで、日本の漫画に鮮烈な衝撃をもたらしたといっても過言ではありません。 日本でのメビウスの本格的な紹介は1979年頃からですが、谷口ジローはそれ以前に洋書の世界で独自にメビウスを発見していて、メビウスが本名のジャン・ジロー(Jean Giraud)の名前で空前の大ヒット作となった西部劇漫画『ブルーベリー』を描きまくっていた時期から傾倒していたそうです。バロン吉元もこの作品に影響を受けています。
しかし、根源的な日本の漫画とメビウスの関係性を語るとなると、やはり「メビウスからいろいろなことを学んだ」と自他共に認めている大友克洋の存在をクローズアップしないわけにはいきません。80年代から90年代にわたって劇画ブームが沸き起こる中で、メビウスの影響を受けた大友克洋は、さらに洗練された漫画のスタイルを取り込み、BDの手法を日本の漫画界に定着させました。
Q6:手塚治虫や宮﨑駿も影響を受けたのですか?
A6:晩年の手塚治虫や宮崎駿もメビウスの洗礼を受けていました。
手塚治虫は、メビウスの特徴的な陰影の線を「メビウス線」と名づけて自作に用い、自作の『陽だまりの樹』では、短い線を繰り返して陰影をつけた雲を「メビウスの雲」と呼んでアシスタントへの指示に使用するなどしていました。また、手塚治虫は1982年のアングレーム国際漫画祭でメビウスとの出会いを経ており、早い時期からメビウスと大友克洋の比較などもしていたそうです。
宮崎駿も1980年に『アルザック』を読んで大きな衝撃を受け「強烈な影響」を受けたとのことですが、その時の精神的な影響は『風の谷のナウシカ』の制作時にも受けていたそうです。ちなみに、メビウス自身も宮崎駿のファンであり、自身の娘に宮崎の『風の谷のナウシカ』にちなんでノウシカ(Nausicaa)と名づけています。
Q7:フランスにおける日本の漫画は?
A7:「manga」はフランスでも大人気です。
フランスでは日本の漫画を「manga」と称し、フランス語に翻訳された作品が数多く紹介されています。2005年には、新刊の漫画類において、従来のBDより日本漫画の方がタイトル数で勝るようになり、研究家のジル・ラテイエは、この年を「漫画リザシオンの年=日本漫画普及元年」と呼びました。
90年代以降は、フランスの作家にも日本の漫画の影響が与えられていると言われています。
また、漫画とともに日本のアニメーション作品も翻訳され、人気を博しています。
Q8:アングレーム国際漫画祭とは?
A8:バンド・デシネのイベントです。
1974年より、毎年1月に、フランス・アングレーム市で開催され、「漫画におけるカンヌ」と呼ばれるほどの規模を誇ります。
この漫画祭の表彰は、主にBD作品を対象にしていますが、2000年頃より日本の翻訳作品のノミネートが増え、2007年には水木しげるが日本人で初めて最高賞である最優秀作品賞を受賞、2015年には大友克洋が最優秀賞を受賞しています。
Q9:バンド・デシネ関連のニュースは?
A9:2017年以降もバンド・デシネに注目。
スイッチ・パブリッシングは2017年6月20日から『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』シリーズを刊行。これは村上春樹の短篇小説をフランス人アーティストがコミカライズする企画で、全9巻の刊行が予定されています。
また、7月にアメリカで公開予定のSF映画、『ヴァレリアン・アンド・ザ・シティー・オブ・サウンザンド・プラネッツ』(リュック・ベッソン監督)は、フランスで大人気のBD作品が原作。日本での映画公開は、18年になる模様です。

トゥルモンド氏 インタビュー

フレデリック・トゥルモンド(Frédéric Toutlemonde)
  • 1978年パリ郊外リラ生まれ。パリ第7大学日本言語文化学科卒。学生時代にスペインとキューバを繰り返し訪問。1999年に初めて日本を訪れ、2003年より日本で暮らす。2008年、在日フランス大使館に勤務するかたわら、ユーロマンガ合同会社を創立。以後、フランス語圏のマンガ「バンド・デシネ」の出版活動にいそしむ。2012年、「海外マンガフェスタ」を企画。以後、同フェスタの実行委員長を務める。

フレデリック・トゥルモンド 氏

私たちは、TOKYOキャラクターフォーラム(以下TCF)というキャラクターのB to Bビジネスをwebサイト中心に運営しているのですが、フランス語圏のコミック「バンド・デシネ」(以下BD)とキャラクタービジネスの接点を見出すことが可能かどうか。
唐突な質問かもしれませんが、まずはその辺のお話をぜひ伺いたいと思います。

euromanga
euromanga

トゥルモンド氏:日本ではコミックやアニメを独自の文化としてマンガの存在そのものをブランド化させることに成功していますよね。クールジャパンの目玉商品。マンガのキャラクターたちが商品化されて成功している例はたくさんあります。
BDの世界にもBDの人気作品のキャラクターがよく商品化されますが、フランスやベルギーなどのキャラクタービジネスはまだ日本ほど積極的ではないと思います。
BDは、マンガとは言っても芸術的な要素が非常に強い作品世界です。たとえば、日本では、メビウスや、エンキ・ビラル、二コラ・ド・クレシーなどがBDの作家として有名ですが、彼らはアシスタントを使わず、最初から最後まで全部ひとりで作業します。当然、一作品にかける時間は長くなりますから、1冊を描くには1年や2年かかるのは当たり前で納得がいくまで作りこみます。

euromanga

日本では、一番 知られているBDのキャラクターは『タンタン』ですか

トゥルモンド氏:そうですね。確かに『タンタン』は、日本でも一時期は人気になり、千葉銀行が広告用にキャラクターとして採用していたりもしていましたから、BDで実用化された記念すべき金字塔作品には違いありません。でも、他にはそんなに日本で活躍したという例が見当たらないです。

25歳で日本に来て、在日フランス大使館に勤務しながら、そこでBDも取り扱っていたのですよね

トゥルモンド氏:そうです。でも 在日フランス大使館でBDを扱う部署からはずれたときに、自分でBDを日本に広めようと思い、BDの邦訳を出版するEUROMANGA合同会社を立ち上げました。

euromanga

日本でのBDの現状はいかがですか

トゥルモンド氏:一定のファンは獲得できています。ただし、大きな広がりにはなっていません。読んだ人には評価していただけるのですが、まだ、認知度が低いのかもしれません。もっともっと、多くの方に読んでもらいたいですね。
日本では、日本の漫画と差別化を図るために、芸術的で重厚な作品が紹介されてきましたが、BDにはアクションやユーモアの作品もたくさんあり、フランス語圏では売れています。

euromanga

BDの新しい動きはありますか

トゥルモンド氏:フランス語圏では、WEBサイトに作品を発表し、人気を得てから出版をするという作家が増えています。特に、女性の日常を面白おかしく綴ったブログなどから、女性の共感を得るような作品が輩出されています。マルゴー・モタン、ペネロペ・バジューなどはその代表例ですよね。それと並行して言えるのは、フェイスブック、インスタグラム、BDにもSNSの時代は押し寄せているような気がします。

現在、『海外マンガフェスタ』というイベントの実行委員長もやっていらっしゃいますよね。
その詳細についても教えていただけますか

トゥルモンド氏:毎年の秋に行うイベントです。本年度も海外マンガフェスタを開催しています。今年は11月23日(木・祝)に東京ビッグサイトで行われる予定で、第6回目となります。
初めての海外マンガフェスタは、2012年11月18日に、世界のマンガを紹介する日本初のイベントとして、7ヵ国の大使館や文化センターからの支援、海外の出版社やイベント運営団体、国内外の漫画家など多くの皆さまの協力を得てスタートしました。日本のマンガ、フランスのBD、米国のアメコミなど世界各国の文化に根づくマンガを通じて、作家やファンそして出版社などマンガを愛する世界の人々が交流できる場となるように米国のコミコン・インターナショナルやフランスのアングレーム国際漫画祭をお手本に毎年続けていきたいと考えています。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。

澤田 美里氏 インタビュー

澤田 美里(Misato Sawada)
  • 小学館集英社プロダクション入社後、出版部門に配属。アメリカンコミックスの翻訳出版などを経て、2010年頃よりバンド・デシネ(BD)の翻訳出版に携わる。これまでに手がけた作品に『アンカル』(作:アレハンドロ・ホドロフスキー/画:メビウス)、『闇の国々』シリーズ(作:ブノワ・ペータース/画:フランソワ・スクイテン)、『ポリーナ』(作・画:バスティアン・ヴィヴェス)などがある。

小学館集英社プロダクション

澤田さんが、BDに出会うまでの簡単な経緯をお話しいただけますか

澤田氏:学生時代にフランス文学を専攻していたので、その頃からBDの存在は知ってはいたのですが、だからといって特にBDに親しんだわけではありませんでした。小学館集英社プロダクションに入社してから、アメコミの翻訳出版に携わるようになり、その時に初めて、日本の漫画とは違う海外のマンガの豊かさに開眼しまして、アメリカ以外の国の漫画はどうなんだろう?と思った時に、ふと目に留まったのがBDだったんです。
一口に漫画といっても、日本、アメリカ、フランスと、それぞれに魅力があって、BDをきっかけに、より世界が広がりました。

日本ではよく『タンタン』が引き合いに出されますが

澤田氏:『タンタン』は、日本では子供向けの作品と思われているかもしれませんが、主人公のタンタンがジャーナリストということもあって政治的な話も多いので、わりと大人が読んで面白い作品なんじゃないかな、と個人的には思っています。『タンタン』はもちろん代表的なBDの一つですが、子供向けのBDなら『アステリックス』というフランスで一番売れているBDもありますし、実際、子供向けから大人向けまでBDは本当に幅が広いんです。日本で紹介されるBD作品は、文学的、芸術的、と評されることも多いので、BD自体がそういうもの、ととらえていらっしゃる方も多いかもしれませんが、コミックエッセイのようなものから壮大なファンタジー作品までジャンルもさまざまです。ほとんどのBDは、「アルバム」と呼ばれるA4サイズくらいの大きなハードカバー本で出版されていて、ページ数が少なく、フルカラーで描かれているのが特徴ですが、90年代あたりから若手作家を中心に私小説的な作品やノンフィクションのような新しいBDのかたちを模索する動きがあり、それをきっかけに判型も多種多様になりました。たとえば、白黒で描かれた、よりサイズの小さい、分厚いソフトカバーのBDなどもたくさん出ていますし、内容や判型で「BDとはこういうものだ」と一概に言えないのが悩ましいところですね。

具体的な作家でお話しいただけるとすると、どんな方がおすすめでしょうか

塩素の味
作・画:バスティアン・ヴィヴェス
小学館集英社プロダクション
ポリーナ
作・画:バスティアン・ヴィヴェス
小学館集英社プロダクション

澤田氏:おすすめしたい作家はたくさんいますが、一人挙げるとすれば、バスティアン・ヴィヴェスでしょうか。若手作家の中では、今一番注目されている作家なのですが、これまでのBDの描き方とは明らかに違うことにチャレンジしていて面白いです。日本の漫画に影響を受けていて、フランスでも日本の漫画は人気なので影響を受けた作家はたくさんいるのですが、ヴィヴェスに関しては単なる日本の漫画の真似に終わらず、BDと日本漫画を上手に融合させたハイブリッドのような作品を描いています。基本、BDでは最初から最後まで一人で作品を仕上げるのですが、ヴィヴェスは日本の漫画のアシスタント制度からヒントを得て、仲間とユニットを組んで制作するという、これまでのBDにはあまり見られなかった制作手法も取り入れています。弊社からは『塩素の味』『ポリーナ』という2作品の翻訳を出版していますが、いずれも素晴らしい作品です。特に『ポリーナ』はバレリーナを目指す少女の成長を描いた作品なのですが、ちょっとした仕草に心情が込められていたり、シンプルな線で描かれたバレエの身体表現が見事で、デッサン力の高さがわかります。日本の漫画のような読みやすさもありますし、2016年に映画化されて、『ポリーナ、私を踊る』という邦題で今年10月に日本でも公開される予定なので、BDの入り口としても、とても入りやすい作品だと思います。2011年に刊行されたこの『ポリーナ』はBD書店賞とACBD批評グランプリという2つの賞を受賞していて業界の評価も高く、まさにBD新時代を象徴する実力派作家だと思います。

マルク=アントワーヌ・マチューも新しい手法に常にトライアルしていますよね

ピノキオ
作・画:ヴィンシュルス
小学館集英社プロダクション
作・画:マルク=アントワーヌ・マチュー
小学館集英社プロダクション

澤田氏:マチューも非常に特殊なことをやっている作家さんで、面白いですよね。こんな作家は日本ではちょっといないと思いますし、BD界でも異色で、不思議な立ち位置にいる作家さんだと思います。どちらかというとオルタナティブ系のジャンルで、彼のような面白い試みをしている作家さんは他にもいて、例えば弊社で邦訳版を手がけた『ピノキオ』(作・画:ヴィンシュルス)を出版しているレ・ルカン・マルトー(Les Requins Marteaux)という小さな出版社ですとか、さきほど話に出た90年代に若手作家が中心となって設立したラソシアシオン(L’Association)のような出版社から、マンガ表現の新しい可能性を探るような実験的な作品も多く出版されています。ただ、アメリカにもクリス・ウェアのような前衛的な試みをしている作家はいますから、BDに限った話ではないのかもしれません。

制作工程も日本の漫画とは違いますよね

澤田氏:原作者がつくこともありますが、基本は作家が一人で、構想からデッサン、着色、物語のセリフまでを手掛けるので、完成までに2年も3年もかかることもあります。作画スタイルも作家によってさまざまで、たとえばエンキ・ビラルなどは、1カットずつバラバラに大きく描いて、あとからデジタル上で組み合わせる、というような方法をとっているらしいです。基本的に編集者は、作品が仕上がるまで口を出すことはほとんどないそうなので、日本のマンガとは出版のシステムからして違いますね。

澤田さんの日本とフランス(ベルギー)以外で興味のある作家とかいらっしゃいますか

『皺』パコ・ロカ(スペイン)
作・画:パコ・ロカ
小学館集英社プロダクション
『シェヘラザード~千夜一夜物語~』セルジオ・トッピ(イタリア)
作・画:セルジオ・トッピ
小学館集英社プロダクション

澤田氏:弊社で邦訳版を手がけた作家でいえば、『シェヘラザード~千夜一夜物語~』を描いたイタリアのセルジオ・トッピ、『皺』を描いたスペインのパコ・ロカなどがいます。トッピは、銅版画を思わせる細密な描線、大胆な構図が特徴で、どことなくエキゾチックな雰囲気のある絵を描く超絶技巧の作家さんです。とにかく飽きずに何時間でも眺めていられるので、絵に興味がある人にはぜひ一目見ていただきたいです。パコ・ロカの『皺』は老人ホームを舞台にした作品で、認知症で次第に記憶を失っていく主人公と、その周りにいる人々のそれぞれの老いを描いた作品です。老いと認知症という、国や人種を問わず共感できるテーマを描いていて、特にラストシーンの表現がとても印象的で胸に迫ります。その他にも、イタリアのロレンツォ・マトッティ(Lorenzo Mattotti)、ディノ・バッタリア(Dino Battaglia)、ドイツのマティアス・シュルトハイス(Matthias Schultheiss)など、まだきちんとしたかたちで日本で紹介されていない作家さんはたくさんいますので、ぜひ興味のある方は調べてみていただきたいです。

澤田さんがBD作品で推薦されるベスト5を教えてください

・『闇の国々』(作:ブノワ・ペータース/画:フランソワ・スクイテン)
・『レヴォリュ美術館の地下』(作・画:マルク=アントワーヌ・マチュー)
・『フォトグラフ』(作・画:エマニュエル・ギベール)
・『サルヴァトール』(作・画:ニコラ・ド・クレシー)
・『ポリーナ』(作・画:バスティアン・ヴィヴェス)
(※どれも大好きな作品なので、順番をつけるのはご勘弁ください。)

小学館集英社プロダクション
『メビウス博士とジル氏 二人の漫画家が語る創作の秘密』ヌマ・サドゥール
著:ヌマ・サドゥール
小学館集英社プロダクション

今年の春に出版された『メビウス博士とジル氏 二人の漫画家が語る創作の秘密』が好評とのことですが、どんな内容か教えていただけますか

澤田氏:メビウスは、大友克洋さんや浦沢直樹さん、谷口ジローさんなど、日本でも錚々たる漫画家さんが影響を受けたことで知られるBD作家なのですが、本書はそのメビウスの1974年から晩年に至るまで複数回にわたって行なわれたインタビューをまとめたものです。日本では「メビウス」の名で知られていますが、実は彼は二つの名前を使い分けていて、『ブルーベリー』のような西部劇の作品を手がけるときは「ジル」(もしくは本名のジャン・ジロー)、『アンカル』のようなSF作品を手がけるときには「メビウス」という名前を使っていました。作画スタイルもそれぞれ違った特徴を持っていて、インタビューを通じて、二つの人格がそれぞれどのように創作を行っているのか、ということを解き明かしています。それ以外にも、メビウスが多大な影響を受けたアレハンドロ・ホドロフスキーの話や一時期メビウスが傾倒していた怪しげなカルト集団の話まで、かなりあけっぴろげに語っていて、メビウスの憎めないキャラクターが伝わってくる内容だと思います。512ページというボリュームですが、思ったよりも読みやすい本になっていると思いますので、漫画家、創作に興味のある方には、ぜひご一読いただきたいです。

[資料協力] フレデリック・トゥルモンド氏