【セガ・ソニックに学ぶ】ゲームキャラクターから「エンターテインメントアイコン」へ

キャラ散歩

1991年の発売以来、世界中で愛され続けるアクションゲーム「ソニック」シリーズ。

30年以上続く同シリーズ内で登場する主人公「ソニック」(本名:ソニック・ザ・ヘッジホッグ)は、北米を中心に世界中で高い認知度と人気を獲得し、株式会社セガ(以下、セガ)を代表するキャラクターに成長しました。

北米における抜群の知名度により、ソニックの活躍はゲームの枠を飛び越え、ハリウッドにも進出しています。2022年8月には映画第二弾『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』の公開が予定されるなど、さまざまフィールドを駆け抜けていくソニック。そして今、その人気は日本でも盛り上がりを見せています。

今回は、ソニックのSNS活用やグッズ展開、「ソニックをエンターテインメントアイコンに」を掲げる同社の今後の展望を、セガ・オブ・アメリカのソニック統括部門であるソニックピラー クリエイティブオフィサー飯塚隆氏と、ソニックピラージャパン クリエイティブディレクター星野一幸氏に伺いました。(以下、それぞれ飯塚さん、星野さん)

■ソニックの誕生:ターゲットは北米の若者

1990年代初頭、ソニックの生みの親の一人であるキャラクターデザイナーの大島直人氏の姿は、ニューヨークの街角にありました。

ソニックシリーズの初代タイトルである「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の開発時、セガから要求された条件は「100万本以上の販売が見込めるゲーム」「セガのマスコットとなるキャラクター」を制作すること。

ターゲットは必然的にグローバル、特にアメリカ、イギリスなど欧米の10代後半から20代前半の若年層になります。「先に海外で人気を獲得し、その後日本に逆輸入」することを想定していました。大島氏はニューヨークへと飛び、キャラクター案を描いたプラカードを持って、行き交う若者たちにアンケートを実施したのです。

図案の中にはアルマジロや犬、さらにはヒゲおやじといったものもありましたが、結果として一番人気だったのが「ハリネズミ」でした。こうして、後にセガを代表するゲームキャラクターとなる、「クール」をテーマにした正義のヒーローソニックが誕生したのです。

(©SEGA)

1992年にアメリカで実施されたQスコア(全米子供人気調査)では、好きなキャラクターランキング3位を獲得したこともあるソニックは、盤石の人気を築き上げています。セガが発売した家庭用ゲーム機「メガドライブ(※1)」(1988年発売開始)がアメリカ、カナダといった北米の年末商戦で爆発的ヒットを記録。同機がセガハード史上最も普及したゲーム機となる一翼を担ったのが、他ならぬソニックでした。

(※1…メガドライブはアメリカ・カナダ市場では『SEGA GENESIS』の名称で発売https://sega.jp/history/hard/megadrive/

■ソニックのTwitterアカウント 日米比較

今では企業の顔というだけでなく、日本を代表するキャラクターの一員となったソニックの活動について、まずはTwitterの活用について見ていきましょう。

世界的人気を誇るソニックのTwitterアカウントは、北米版と日本版の2種類の公式アカウントが存在します。ソニックに関する最新情報は、国内外のファンになるべくタイムラグが発生しないよう、両アカウントで日米同時発信を行っています。

一方で、最新情報以外の内容には、北米版と日本版で違いを出しています。投稿の傾向や具体的な内容から、両アカウントの特徴は以下のようにまとめられます。

●北米版ソニックTwitter:発信型投稿
画像や動画に短い文章を添えただけの投稿が多い。ハッシュタグや企画もの投稿がほとんどない

●日本版ソニックTwitter:参加型投稿
フォロワーとの交流を重視。参加型企画や、フォロワー投稿のリツイートなど親しみやすい投稿がい多い。

 
©SEGA 画像出典:ソニックTwitterアカウント(北米版・日本版))
*画像クリックでそれぞれのリンクへ遷移します。

■日本でのSNS発信施策

〇細かなターゲッティングを基にした発信

北米版と日本版のアカウントでは投稿のすみ分けがされていることが分かります。

両アカウントの特徴を端的に説明すると、前者は画像や動画、テキストを組み合わせて情報発信を行うシンプルなもの。後者はファンとの交流を大切にし、一緒に作り上げるコンテンツ企画に注力しています。

その理由は、ソニックが逆輸入されたキャラクターであることに起因しています。北米での絶大な人気に比べれば、日本での知名度はそれほど高くないのが現状。既存ファン層とまだソニックを詳しく知らない新規層の両方をターゲットにし、キャンペーン企画を通じてゲーム情報やソニックの魅力を発信し、さらなるファンの開拓を図っています。

日本での具体的な施策を見てみましょう。「バレンタイン2022 プレゼントキャンペーン」では、2種類の投稿を対象を分けて行っています。それぞれの対象、内容、目的は以下の通りに分類されます。

【対象:既存ファン層】
・内容:新規イラストを使用したチョコレートの写真を投稿
・目的:ファンに向けた感謝の気持ちを発信する

【対象:新規層】
・内容:バレンタインを記念したフォロー&RTキャンペーン
・目的:ソニックを知ってもらうきっかけ作り

 

〇ファンアートや壁紙大喜利も

「バレンタイン2022 プレゼントキャンペーン」のみならず、Twitterを活用した参加型企画は他にも数多く行なわれています。

その一つが「ファンアート」です。これはソニック公式ポータルサイト「ソニックチャンネル」の1コーナーとして、ファンからの応募イラストを毎月掲載するために2005年10月から開始した、16年以上続く人気コンテンツがルーツ。2011年の日本版アカウント開設後は、同アカウントと連携し毎月の投稿テーマなどを告知しています。

これまでの掲載総数は2995点(2022年3月現在)に上り、「ソニックの誕生日」や「ハロウィン」などのイベント内容も盛り込んだソニック愛に溢れた作品が多数寄せられています。

Twitter独自の施策として、「#かべがみ大喜利」という企画があります。これは、日本版アカウントが発信するイラストに対して、ファンが思い浮かぶセリフやシチュエーションを大喜利形式で応えるもの。その中で面白かった投稿を公式アカウントや公式ポータルサイトで紹介するという流れです。この企画はTwitterユーザーであれば誰もが参加でき、おもしろ投稿に自信がある腕自慢たちから大きな支持を集めています。

このように、ソニックの日本版アカウントはファン参加型のコンテンツが多数あり、ファンとのコミュニケーションを大切にした情報発信が特長だといえます。

 

■「#走れソニック」で悲願のTwitterトレンド入り

ソニックのSNS活用は、Twitterだけに留まりません。YouTubeとTwitterを連携したSNSミックスの施策でも、大きな成果を残しています。その最たる例が、2021年のソニック生誕30周年を機にYouTubeLiveで実施した、視聴者参加型の新感覚ゲーム『SEGA STREAMING THEATER』の生配信です。

葛葉さん走れソニックTwitterトレンド2位という情報がゲーム内に表示 https://www.youtube.com/channel/UCSFCh5NL4qXrAy9u-u2lX3g   /葛葉

『SEGA STREAMING THEATER』は、ストリーマー(配信者)が行うゲームのプレイ画面に視聴者のコメントがリアルタイムに反映される仕組みで、セガが独自開発した革新的技術が取り入れられています。ストリーマーがプレイするソニックを視聴者のコメントがアイテムになって助けたり、逆に敵を出現させて邪魔をしたりと、生配信されているゲーム画面を通して視聴者との交流ができるようになっています。

 

Twitterとも連動し、ハッシュタグ「#走れソニック」をつけたツイートもゲーム内に反映されるなど、メディアの垣根を超えて様々なファンを巻き込むことに成功しました。

配信は各ストリーマーのチャンネルで行われ、配信開始と同時に「#走れソニック」のツイート数が急上昇。瞬く間にTwitterのトレンドワード入りしました。(最高2位を記録)

星野さんいわく、この生配信企画の特長の一つが「広告宣伝費がほとんど掛かっていない」ということです。その背景について、次のように述べます。

「ゲーム実況の生配信企画には、ゲームのシステムに魅力を感じたインフルエンサーに参加していただきました。親和性の高いコンテンツをインフルエンサーに提供し、協力を得られたことがコンテンツの拡散と話題化につながった要因と考えています」(星野さん)

『SEGA STREAMING THEATER』は、ストリーマーと視聴者、そしてTwitterユーザーの相乗効果を狙ったものですが、ソニックのYouTubeチャンネル内では、より直接的なファンとの交流を目指した新たな試みが行われています。

ソニックのYoutube公式チャンネルは、2013年より動画の投稿を開始しました。チャンネル登録者数は3.62万人、総視聴回数は約1250万回に成長しています(2022年4月現在)。2022年2月からは制作スタッフによる雑談トーク番組「音速赤ちょうちん」や、ぬいぐるみソニックを使った散歩風動画「ソニさんぽ」、直近の関連話題をニュース形式にまとめた「ソニックニュース」など、動画コンテンツにも力を入れています。

■年代別に親しまれるソニックのグッズ展開

ここまでは、ソニックのTwitterを始めとしたデジタル施策について紹介しましたが、その目線をリアルに移します。ソニックは各メーカーと連携し、そのコラボによって多彩なグッズが生まれています。そこで、これまで世に送り出してきた数多のグッズの中でも、特にオススメのグッズを飯塚さんに伺いました。

一つ目は、2021年のソニック30周年記念で、セイコーとソニックがコラボした限定腕時計。盤面にフィールドやキャラクターが埋め込まれているのが特徴です。3000個の限定販売で、裏側にはシリアルナンバーが刻まれており、30周年を祝うライセンスグッズにふさわしい、プレミアム感が漂います。

©SEGA

次に、「和ソニック」シリーズ。日本の原風景である浮世絵の世界を、ソニックが駆け抜けていくコンセプトで描いた商品。

「和ソニック」シリーズは、主に東京ゲームショウ開催時の物販商品として、毎年新作を販売していました。もちろん日本のファン内でも話題のグッズですが、イベントのために来日した海外ファンからの人気が高く、購入している姿が多く見受けられました。

©SEGA

さまざまな形でグッズ展開を行う目的は販売だけではなく、ファンの年代別にソニックのブランディングを形成していくという狙いがあります。

「ソニックというブランドを維持するために、ソニックは単に、かわいい、かっこいいだけでなく、カルチャーを代表するエッジの利いたキャラクターであると皆さんに認識してもらいたいと考えています」(飯塚さん)

年代別のソニックのイメージは以下のように分類し、それに見合うブランディングを想定しています。

<年代別のソニックのイメージ>

・10代前半までの方 ⇒ 親しみやすく、かわいい
・10代後半から20代の方 ⇒ かっこいい、憧れ
・30代以上の方 ⇒ ハイブランド、高級感

■ソニックを「エンターテインメントアイコン」に

ソニックは、圧倒的な人気を誇る北米を拠点に映画、アニメ、アパレル、生活雑貨、音楽など多岐にわたり展開しています。
「ハリウッド映画を含めた北米でのソニックの活躍や人気、魅力が、日本にも逆輸入という形で伝わり始めている」と星野さんは感じています。

ソニックの人気が再びの高まりを見せる中、セガはソニックの「次のステージ」を見据えています。

「ソニックは単なるIP(※2)ではなく、『エンターテインメントアイコン』となることを目指しています。2017年にこの目標を掲げたときは、実現には程遠い状況でした。しかし、2020年に公開されたソニックの第一弾ハリウッド映画のヒットに代表されるように、ゲーム以外の映画やSNSといったメディアを通じて、全世界規模でソニックの知名度が上がり、ファン数が爆発的に増えました。
特に映画は、販売地域が限定されるゲームと違い、ゲームをしない多くの人にもソニックの存在を広めることができました。これからはゲーム事業をコアとして、ソニックというキャラクターをゲーム以外のメディアでも活躍させ、より一層全世界、全年齢層に向けて育てていきたいです」(飯塚さん)

ソニックの第二弾ハリウッド映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニックVSナックルズ』は、日本国内ではこの夏、2022年8月19日に公開を予定。

スクリーンを縦横無尽に駆け巡るソニックに会いに行ってみてはいかがでしょうか。

(※2…知的財産。ゲーム業界ではゲームタイトルやキャラクターを指す)

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